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ゴルベ温泉のブログ

好きなことを書きます。

【ラーメン】 三ノ輪 トイボックス 特製塩そば

【注文】

  • 特製塩そば ¥1,100-

 

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 いつも食べる醤油を押さなかった。タツヤは酔っていたからだ。この日は金曜日、春一番が吹いてから数日経っていた。仕事柄、「華金」という言葉の存在を信じることができなかった彼にとって、金曜日のこの時間帯に酔っていることは稀である。金曜日は終電間際で帰る、とは言えいつも職場付近で一杯ひっかけてから帰るのだが。

「うわ、乗り過ごした…」

 降りるはずの上野駅を通り過ぎていた。家路へと向かう人混みであふれた車内に酔っ払いが一人、それが彼である。 

「おい、今日早いし飲みに行くぞ」

 先輩が声をかけて来たのは午後4時頃だった。

「あ、」

 なぜかその日は、金曜日なのに早く帰れる雰囲気があった。昼を過ぎてからいきなり手持ち無沙汰になったことからも、その予感がしていた。さて、早く帰ったら何をするかとタツヤは考えているところだった。やりたいことは色々とあるのだが決めきれないし、時間があったらあったで何すればいいのかわからないな、そんな贅沢な悩みを抱えていた。

「わかりました」

 そう簡単には家に帰してくれないんだなと思いながらも、先輩にはそう返事をした。縦社会はこれだからしょうがない。机に少しの書類が重ねてあった。それに目を通したタツヤは大きくため息をついた。

 

「もう一軒行くか?」

「すいません、明日朝早いんで」

「お、そうか。お疲れ」

 彼は、しっかり断れば帰してもらえるということを学んだ。先輩との酒がつまらないわけではない。寧ろ楽しいと感じている。いつもは怒ってばかりの人が意外と気さくな人だったり、またその逆だったり、違った一面を見れて楽しいからだ。また、彼はお酒を飲むことも嫌いではない。それは、ストレス発散でもあるし、やはり仕事終わりのビールはうまいからだ。タツヤはそう感じてしまっている自分が少しオッサンになったようで寂しさを感じることもあるようだ。

 まだ威勢のいい先輩たちは、彼ら好みのお店を探して街の深くへ行ってしまった。

 「ごちそうさまです。お疲れ様です」

 それとなく大きな声を出したが、届いていただろうか。賑わった街にかき消されてしまったのだろうか。先輩方が聞いているかどうかは重要ではない、と言い聞かせながらタツヤはなるべく目線を下げたまま駅へと向かった。

「もうちょっといたかったな」

 明日の朝は全く予定がない。しかし、どういうわけか早く帰りたかった。家に帰って何をしたいわけでもないのだが、このまま飲み続けたくもない。タツヤは一旦落ち着きたかった。ただただ、一人にして欲しかったのである。

 お酒は、あてもない気持ちを支えるには足りなかった。しかし、タツヤを寝かせるには十分だった。いつもより早い午後7時30分、その日の人形町は少し肌寒かった。

 

「三ノ輪でラーメンか」

 乗り過ごしたことを機に、うまいラーメン屋があることを思い出した。ちょうど入谷駅に着いた列車は多くの乗客を改札へと運ぶ。

「入谷ってこんなに人が降りるのか」

 もちろん、入谷駅で降りて反対側ホームへと向かえば早く家に帰れる。しかし、ただそれでは味気がないとタツヤは思った。乗り過ごした後に、反対側ホームへ向かうときの情けなさを思い出したくない。

「あれは中年のくたびれたオッサンだから似合うのであって、中途半端ににあったスーツを来た20代の俺がやったところでだらしないサラリーマンにしか見えないよな」

 どちらもだらしないサラリーマンなのだが、あれはこれ、これはあれ。必要のない区別は酔いに任せたものだろうか。そうしているうちに車両のドアがゆっくりと閉まった。タツヤはあと一駅、電車に揺られることに決めた。

 

 9ヶ月ほど前に訪れた以来ではあるが、足が道を覚えていた。今回は珍しく行列がなく、すんなりと店に入ることができた。前回は、駅を降りてお店の方角を見たら長い行列が出来ており、多少方向音痴の節があるタツヤはすぐ店を見つけることができて安堵したのだった。駅から歩いて3分、迷う方が難しいと言う人が多いのだが。

 

 

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 店内の匂いがもうすでにいい醤油の香りがした。タツヤはそこで、前回醤油を食べたことを思い出した。そして美味しかったことも思い出した。そこで彼は、今回も醤油にしようと思ったが、もっとさっぱりとした塩が食べたくなった。食欲に任せたところ、彼は一番高い特製塩そばを頼んでいた。チャーシューが何枚も入っていた。唾を飲み込んだ。

  タツヤが思ったとおり、さっぱりとしていた。しかも、鶏のエキスを感じた。旨味がそこにはあった。麺も細くてツルっとしていて、食べやすい。

 

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  ワンタンを見つけた。

「チャーシューこれだけあるのに、ワンタンもあるのかよ」

 しっかりとした生地に、スープが染み込んでいた。

 

 タツヤはあっという間に完食した。最後のスープまで飲み干したところで、酔いが覚めていたことに気がついた。彼は夢のようなトッピングを食べ終えて、現実に戻ったのだろうか。

「明日は早起きするか」

 扉を開け、暖簾をくぐった先には夜空が見えた。それは、まだ午後9時にもなっていないほんのり暖かい夜空だった。

 ところで、「早起きする」とは言ったものの、タツヤは乗り過ごすこことなく無事帰宅できるのだろうか。乗り過ごすことがなければいいのだが…

 

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